烈ちゃん、真打ちも真打ちッ!
100話こそが「ミニ四レーサー烈」の、そしてWGPの全てであります―――
前半。
快調にトップをキープするアイゼンヴォルフ。が、ミハエルのベルクカイザーが小石をはね、ミハエルの頬を打つ。マシンを睨みつけるミハエル。芦ノ湖畔につながるダウンヒルはマシンへの負担が大きいので、ペースダウンする1位のアイゼンと2位のアスレン。が、ここに悪条件などものともしないチームが2つ――。
後ろをふり返ってちらっとビクトリーズを見るカルロ。ふっと笑って「さあディオスパーダ、やつらにイタリア式の走りを見せてやろうぜ!」…この「やつら」とはもちろんビクトリーズのことであります。ディオスパーダのステアリング機能をフルに使ってノンブレーキ走法で一気にトップ集団に迫るカルロ! 驚く首位連中。彼らの背中に向かって「さあ、ここからが勝負だ!」 と、その時――「その通りだ!」 なんとッ、カルロのすぐ後方にビクトリーズがッ!? しかも3台が一体となった合体フォーメーション技で―――
「名付けてビクトリー走法さ!」バスター、スピンバイパー、EVO.それぞれのマシン特性を生かしたノンブレーキ走法! 「さすがだよカルロくん」「だけど」「わてらのことを忘れてほしくないでゲス!」 驚きのカルロ。こっ、こいつらもオレと同じノンブレーキ走法を使うなんて――。やつらの鼻をあかしてやるつもりが…。「ちいッ、味な真似を…」 悔しそうなカルロ。
しかしピット直前でカルロの後輪がバースト。追い抜かしながら「大丈夫かい、カルロくん」と声をかける烈。「うるせえ!」とわめくカルロ。烈はバトル行為は否定しても人間は否定しない。それが――
中盤。
ここで前半パートのクライマックスが発動。昨夜のホテルの男の子も沿道で藤吉を応援。ところが手にしていたミニ四駆がコース上に! 拾おうとコースに入ってしまう男の子。「危ない!」と烈。だが藤吉は気付く。昨夜の男の子だ! ハマーDがコース上のミニ四駆を邪魔だと踏み潰そうとした瞬間、飛び出して男の子のマシンを拾い上げる藤吉。しかしその為、足を捻挫してしまう。これ、7話の烈と同じですね。かつてハマーDと同じことをしようとしていた藤吉が、あの時の烈と同じ行動に出る──。藤吉くん、よくぞここまで成長した!!
やけどの上に捻挫──藤吉の足を気遣うビクトリーズたち。だが藤吉は走らせてくれと言う。「レースよりも大切なことがあるでゲスよ、レースで勝つことより大切なことが」 ここでギクッとするカルロ。ビクトリーズの方をふり返る。「わてらには誰にも負けないミニ四レーサー魂があるでゲス!だからまだ走らせてほしいでゲス」 藤吉はテーピングしてもらいレース続行。せっかくここまで来たんだ、藤吉くんをゴールまで辿り着かせてやらなくては! そう、ゴール目指して走るのがミニ四駆。ゴールへ辿り着くのがミニ四駆! 盛り上がるビクトリーズを見ながら「ケッ」と言って向うへいくカルロだが、このことがカルロに何を思わせたか──。
後半。
烈くん、ついに真打ちとしての本領発揮へ。烈くんのために雨も降る! 悪条件の時こそ燃えるのがソニック! ここぞとばかり、猛追のビクトリーズはアスレンを一気にかわし、アイゼンヴォルフへと迫る。だがスピンバイパーとEVO.はもう限界のようだ。ここでついに藤吉・Jとのフォーメーションから離れ、単身ミハエルへと向かう烈! ここからが真打ち、烈の本当の出番! アドルフ・ヘスラーは一瞬で片付け、トップのミハエルに追いすがる。「勝負だ!ミハエルくん」 おお、待ちかねたねえ、ミハエルとの1対1の勝負! さすがはコーナリングの貴公子VSヨーロッパミニ四駆界の貴公子、華麗ですわ~。ところがこの王子様がとんでもないことを言い出す。ミハエルくん、間違ってもうちの大将に「マシンは敵」なんて言っちゃいかん…。ミニ四駆とソニックをこよなく愛する烈くんに対してそれは禁句だ。ミハエルのことをなまじ素晴らしいミニ四レーサーだと思っていただけに、マシンを「支配」することで走っていたとは烈くんもがっかりだ。ここで烈のもう1つの隠れ必殺技「キレる」が発動。
「それは違う!マシンは敵なんかじゃない! ソニックは友だちなんだ! そんなことを言うきみには負けるわけにはいかない! ソニックは敵なんかじゃない! ぼくはお前を信じてる。ソニックならきっと勝てる!」 ここでGPチップにみなぎるパワー、ソニックの心が烈に応える!
「いけーっ、ソニック!!」 コーナーで回り込みながら、ついにベルクカイザーを抜くソニックーッ! ミハエルを振り返りざま、「さあ、来い、勝負だ!」 めめめ、めっちゃかっこいいです、さすがは山岡烈くん~。ここでも溶けてましたね、私…(笑)。抜き返そうとするミハエルだが、「マシンが敵」では烈くんには勝てぬ。ゴール手前、ソニックに置いていかれ、再加速できない。後退していくベルクカイザー。
ミハエルの無敗神話、ここに敗れる。
このままソニックがゴールかと思われたが、そこに──。
雨で後退していたカルロ。だが、嫌いな雨はカルロにゴミ同然だった幼い頃の自分を思い出さす。それを救ってくれたのはディオスパーダ…はっとしてディオスパーダを見るカルロ。そこへヘリからのファイターの実況が聞こえる。「トップ争いはアイゼンヴォルフのミハエルくんとビクトリーズの星馬烈くんに絞られたようだ――」 カルロの胸に勝利への執念がよみがえる。「ふざけるな、ふざけるなあ、あいつらには負けられねえんだ!」 ここで言う「あいつら」とは、もちろんミハエルではなく、ビクトリーズのことです。「先頭はまだか、先頭がまだ見えねえ!」 走る走る、ディオスパーダ! アスレンを抜き、藤吉らをかわし、トップへ、トップへ、目指すはビクトリーズの先頭、烈――。
カルロとビクトリーズの関わりは豪から始まった。だが、カルロはサイクロンマグナムに対しては無敗だった。豪は頑張ったが、70話も79話も勝利の女神はカルロに微笑んだ。それが85話辺りから様相が変わり始める。壊したはずのサイクロンは合体マシンとなって蘇り、カルロからトップを奪った。87話の豪はビクトリーズの1員になっており、合体ベースのビートマグナムはもはや豪1人のマシンではなく、仲間の支援を受けてさらに速く強く生まれ変わっていた。バトルが万能ではなくなったと感じたカルロは88話でバトルより勝ちを優先することにする。だからナイフを外した。ゴール手前で豪にバトルをしかけたのは勝ちを確信したからだろう。だが、(カルロにとっては意外にも)トップを取ったのは烈のソニックだった。これはカルロにとって衝撃だったに違いない。まさかあんなヤツらに負けるなんて──。これがきっかけでカルロの中にビクトリーズへの対抗心が本格的に燃え上ることになる。
ここでカルロの相手は「豪個人」から「ビクトリーズ」へ変わる。だから「お前ら」「やつら」「あいつら」と複数形なのだ。89話でカルロが宣戦布告していた相手は豪だけではなくビクトリーズ全員に対してだったのだ。99話の「レースなんてのは1人でやるもんだ」もビクトリーズへの対抗意識を表している。仲間の力なんてのも気に入らなかったに違いない。だからカルロは1人でファイナルレースに臨んだのだ。仲間と力を合わせるビクトリーズに1人で勝ってみせることにより、88話の屈辱を晴らそうと思ったのだろう。
だが烈たちの反応はカルロの予想を上回っていた。敵であるオレを気遣ってくる上に、「勝つことより大切なことがある」などと言う始末。雨で後退したカルロは一時勝負への執念をなくしたかのように見えたが、カルロがこのままで終れるはずがない。「勝つことより大切なことがある」などとぬかすヤツらにだけは絶対に負けられない。ヤツらに勝って証明する。「勝つことが全て」だということを!
ゴール直前、ベルクカイザーなんぞは瞬時にかわし、ついにソニックに追いつくディオスパーダ。ここからが本当の勝負ッ! そこへジュリオが余計な無線を入れる。「カルロ、チャンスよ、アディオダンツァを!」 一瞬迷うカルロ、ディオスパーダの加速が止まる、ソニックを抜けない! だが――「いけーっ、ディオスパーダ!」 アディオダンツァを使わず、そのままゴールへ、鼻の差で――。
「うあああぁーーーー!!」 カルロが始めて味わった真の勝利の雄叫び…
まさかアディオダンツァを封じたことがここまで自分に感慨をもたらすなんてカルロ自身考えてもいなかったに違いない――。あの瞬間、「報奨金目当ての勝利」が「純粋な勝負」へと昇華してしまったことにカルロは気がついていたかどうか…。
ちょっと呆然状態の烈。でもね、烈ちゃん、これは烈くんにしか出来なかった役。烈くんだからこそ出来た役。ジュリオが無線を入れた時、カルロがアディオダンツァを使わなかった、いや使えなかったのは相手が烈だったからだと思うのです。烈は言葉ではなく走ることで相手の心を開く。相手が誰であろうと「自分の走り」を見せつけることで言いたいことを伝える。しかも藤吉・Jとのフォーメーションから離れてからの烈はもはやチームでもなくリーダーでもなく、1人のレーサーとして自分を全開放した状態になっていた。カルロはそんな全開烈と真剣勝負モードに入ってしまったのである。カルロが本当はマシンをいたわり愛し信じるレーサーなのは事実(78話参照)。それは烈も同じ。しかも烈はカルロを嫌っていない(烈が嫌うのはあくまでも悪い行為であって人ではない)。カルロと同じミニ四レーサー魂を持ち、カルロを他のレーサーと同じに扱う烈の走りがカルロの中から隠れていたミニ四レーサー魂を引きずり出しバトルを封じさせたのである。
サブタイトルの「勝者の条件」とは、まさにこの、マシンをいたわり愛し信じるミニ四レーサー魂のことだと思われます。烈とカルロにはそれがあった。ミハエルにはなかった。それが3人の勝負を分けた。この回で烈くんが果たした役割は大きい。ミハエルの無敗神話を破り、カルロに真の勝利を味あわせた。これは誰よりもミニ四駆を愛し信じている烈だから出来たこと。だから私には「勝者の条件」の勝者とは烈くんを指しているのだとも思えるのです。
烈くん、またいつかカルロと勝負しよう。今回のレース、スタート時はカルロの方が先に出発していたことを考えれば、区間タイムで本当に速かったのかはどちらか分からない。きみたちのレーサーとしての本当の勝負はこれから始まるんだよ。